・・・ 通潤橋、水路の仕組みは ・・・     
  サイホン? 連通管? 逆サイホン?
 
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 平成16年5月8日に開催された「日本石橋を守る会」総会で「通潤橋の水路の説明に、サイホン、逆サイホン、連通管など様々、これでは混乱しないか。統一する必要はないのか?」との提案があり、守る会で検討することになりました。そこで、私たちも調べてみることに。

 まずは、サイホン(サイフォン、siphon)について正確に確認しようと、いくつかの辞書を調べてみました。
 
日本語国語大辞典
大気圧を利用して、高い所にある液体を、低い所に移すのに使う曲った管。管の最高部は液面より高い
日本語大辞典
液面より高い所を越えて低い所へ移す曲管。
広辞苑
液体をいったん高所に上げて低所に移すために使う曲管。
世界大百科事典
一端が長い曲管を倒立し、圧力差を利用して、短いほうの口からとり入れた液体を他端から流出させる装置。
日本大百科事典
高い所にある液を容器を傾けないで低い所へ移す一種の連通管。原理は、高いほうの液面に働く大気圧のため液が管内に押し上げられることによっている。
21世紀世界百科カロラマ
高い位置から低い位置へ液体を移動させるために用いる曲管。大気圧を利用した輸送管で、連続して液体を移動させるためには、液面の高さが逆転しないことと、つねに管中が液体で満たされていることが条件となる。
 ほとんどが「いったん高所を経由して低所へ」となっています。

 ある理科関係の資料には「サイホンとは、ゴム管で高いところの水を低いところに移す装置である。サイホンの原理は、圧力差で水を押し出すはたらきである。」とありましたが、描かれていた図は「いったん高所を経由して低所へ」流れるものでした。

 以上のことから推測すれば、下の「図1」がサイホンで、「図2」はサイホンではないということになります。単に閉じた管の中で、圧力差を利用して液体を移動する仕組みというのなら「図2」も同じ、サイホンと考えたくなります。通潤橋の水路(右下に略図)は「図2」の変形です。「いったん高所に・・・」という点を考えると、通潤橋はサイホンではないことになります。

 
 それでは連通管ということでしょうか。「連通管」を辞書で調べると
広辞苑
2つまたは2つ以上の器の底部を曲管で連結して液体が自由に流通できるようにした容器。U字管。
 
日本国語大辞典
上端を開いた2つ以上の器の底部を管でつなぎ、液体が自由に通れるようにしたもの。その最も簡単なものがU字管。
 とあります。本校WEBを含め、通潤橋の水路のことを「逆サイホン」とあるのは「サイホンを逆さにした形」という「形状」(上の図2は図1を上下逆にした形)を指したものでした。しかし、それでは「サイホンとは逆に(低い所から高い所へ)流れる構造」などと混同する場合もあります。少々疑問点も残りますが、やはり「連通管」としたほうが無難でしょうか。

 ところが、先日(2004/05/15)の九州東海大学の公開セミナーにおいて、都市工学科の右田教授が土木用語として「逆サイホン」という言葉もあると話しておられました。そうなると逆サイホンとの説明も正しいことになります。

 そこで、県立図書館の土木用語大辞典(技報堂出版)で「逆サイホン」を調べてみました。この辞書には「サイホン」や「連通管」の項目はありませんでした。

逆サイホン[inverted siphon]
開水路の一部の区間に設けられる管路流通構造物。水利学上でのサイホン効果によるものではなく、その形状から逆サイホンといわれる。水路が河川を横断するときに用いられ、逆サイホンの両側は自由水面を有し、その水位差により流れが生じる。
 
サイホン式流入部
サイホンを利用した洪水吐き流入部。サイホンとはU字式の管路で、管路の一部が導水勾配線上方に出ているものをいい、上流側から呑口、上流管路、スロート(逆Uj字の山の部分)、下流管路、吐口より構成される。
 
伏越(ふせこ)し
流れの機構はいわゆるサイホン作用ではないが、逆サイホンと呼ばれることがある。

 「サイホン」はだめだが「逆サイホン」は使えるということです。「水路が河川を横断するときに・・・」とは、まさに通潤橋などの構造を指しています。しかし「逆サイホン」という言葉は、一般の辞書には載っていない土木「専門」用語であり、更には「サイホンとは逆に流れる」などと勘違いする恐れも。実際「通潤橋では下を流れる谷川の水を大地まで上げているのか?」との質問があったことも。その点に留意して説明する必要があります。もちろん「連通管」及び逆サイホンと同じ意味の「伏越し」も使えます。また、尾上様から「連通管を応用した測量器具「水準管(water lebeling pipe)」を説明に使えば、解りやすい」とのアドバイスを頂きました。

 以上が現段階での私たちの結論です。石橋を守る会の正式な結論が出たら紹介致します。私たちも、もう少し考えてみます。しかし、間違い等もあるかと、気付き次第訂正させて戴きます。物理や土木関係の先生方のアドバイスを頂ければ幸いです。(2004/05/21)

本ページを閲覧された方より、以下のようなメールを頂きました。
 サイホン管の上部に空気がたまると、サイホン現象が破けます。「溜まった空気が大気圧だからだ」と考えましたが、少し変です。「空気が膨張し、下への力を吸収するのだ」と言う人がいますが、変です。空気の膨張する理由を言わないからです。空気が膨張するのは、加熱されたときだけと思っています。サイホン管は、加熱されていません。お教えください。
 空気(気体)は水(液体)と比べて凝集力(分子間の引っ張る力)が弱いからではないでしょうか。少々の空気では問題ないようですが、一定度合(どの程度なのか?)を越えたら水同士の引っ張る力が水の質量より小さくなってしまい(?)水の流れが断たれるのか。即ち、上の「図1」のb-aの水圧の差で流れていたのが、空気が入ったため、入り口方向へのaの水圧と出口方向へのbの水圧による流れに分断されるのでは。
 それとも気圧の関係でしょうか。水の入り口も出口も大気圧は1気圧、管の中に空気が入ると、管の中の真空でなくなり、中に入った空気の気圧も高くなり、「図1」のaの水が保てなくなる。よって水が入り口から出口方向へ流れていたのが、入り口方向へのaの水圧と出口方向へのbの水圧による流れに分断されるのかとも。
 どちらかと言うと後のほうかと思うのですが、専門的知識に疎く自信はありません。どなたかお教え頂ければ助かります。よろしくお願いします。(2004/09/14)
  
 通潤橋以前にも、「伏せ越し(伏越)、吹上樋」の原理を応用した水路は全国各地にあるようです。別ページ「通潤橋架橋の知恵と技術」でも触れているように、通潤橋架橋にあたっても、薩摩や日向などの吹上樋の現場を訪ね歩いています。何れも規模が小さく、技術的な参考にはならなかったようですが、伏せ越しの原理は既に知れ渡っていたのではないでしょうか。「金沢城への用水路に逆サイホンとの説明が!」とのメールを頂戴し、調べてみることに。金沢城への「辰巳用水」が、堀を渡る部分に伏せ越しの原理を使って完成したのは1632年。この工事を担当したのが近江国の「穴太石工」、加藤清正が熊本城を築城(1607年完成)するために連れてきた石工たちの仲間でも。熊本最古のアーチ石橋を架けた石工 「仁平(にへい)」 は、熊本城築城に従事した穴太石工の子孫の一人。仁平グループと通潤橋を架橋した種山石工との関連も不明ですが、何か赤い糸で結ばれているような気も。更には「伏せ越しの原理が、何時の頃から知られていたのか?」等、興味は尽きません。(2004/11/01) ところで、最初「辰巳用水が我が国最初の伏せ越し」と書いていましたが、「伏越しは、辰巳用水は1632年、佐賀県の馬頭サイフォンが1611年で、日本初は馬頭サイフォン」とのメール(2006/07/17)を福島の村上様より頂戴しました。訂正させて戴きます。(2006/07/18)
伏せ越しと上越しの図 「伏越し」と「上越(うわご)し」について、土木関係のお仕事に携わっておられる豊田様よりアドバイスメールを戴きました。

 川(水路含む)の上を横断して通す管路は、全て「上越し(うわごし)」と通称します。川の河床より下を横断するものが「伏越し」とされています。

 横断する川や水路との上下の位置関係によって管路を区別する「伏越し」と「上越し」という名称があるのですね。通潤橋は「伏越しの原理を応用した上越し」とも言えるかも知れませんね。ありがとうございました。(2005/09/27)
 

最終更新:2008/05/05

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