1997年3月9日の思い出

−日食初観測物語−


1997年3月9日。この日は、長年見るのが夢だった日食を見ることができた。幼い頃から日食・月食に興味をもっていたのだが、肝心の現象当日はいつも曇ってばかり。おかげでこの16歳になるまで、一度も日食を見たことがなかった。



 ついに、運命の1997年3月9日がやってきた。天気は、前日からの文句無しの快晴。天気予報でも晴れマークが出ている。これは今日確実に日食が見られることを示しているのはいうまでもない。
「やったぁ! 長年夢見てきた日食が、今日ようやく見られるのだ!」 
私は快晴の空を見てそう叫んだ。欠け幅が非常に大きい大規模な部分日食によって日食の初観測をはたすとだけあって、私は朝から非常に興奮していた。モンゴルやシベリアでは、過去にあまり例のない皆既日食中に巨大彗星が見えるということで、マスコミでもこの97年3月9日を一大天文現象が起きる日として、大々的に日食のことを報じていた。やはりこの日は特別な日だった。私にとっても、これまで生きてきた中で一番楽しみにしていた一日だったのだ(大げさすぎるか?!)。この1997年3月9日まで残り半年をきると、私の頭の中ではいつも欠けた太陽で覆いつくされていて、何事も身に入らなかった。
 そして、その夢の1997年3月9日となり、文句無しの快晴の空の下、私はピークに達している日食モードを抑圧しつつも、押しつぶされそうな緊張感の中、午前8時30分頃から望遠鏡を覗いて太陽が欠け始めるのを待った。
 そしてついに・・・、太陽が欠け始める午前8時39分を迎えた! やはり、欠けたのがわかったとき、言葉では言い表せないほどの感動が訪れた。全身に鳥肌がたって、非常に感動しまくったのだ。そして、欠け始めた太陽はその後想像以上に猛スピードでぐんぐん欠けていき、気がつけばこれまで写真でしか見たことの無かった日食中の太陽が望遠鏡の接眼レンズの中に広がっていた。たしかにどんどん欠けていって興奮はしたものの、欠け幅が広がるにつれて「凄い〜!」と特に思うことはなかった。やっぱり欠けたのが分かったときだけが感動し、その後は欠けた太陽の姿に見慣れてしまったせいか、4〜5割ほど欠けても特に興奮状態に陥ることはなかった。辺りはすっかり薄暗く、そして空気も冷たく澄んだ感じがあった。本当に不思議な世界だった・・・。辺りはいつもと何か様子が違う気がしていた。
 そして、運命の午前9時46分、日食は最大食分(熊本の食分〔欠ける割合〕は65%)を迎え、太陽は三日月状にまで深く欠けていた!! というのに、やっぱり午前8時39分の欠け始めの感動から時間が経っているためか、こんなに深く欠けていてもなにも感動しなかったのだ! いきなりこの最大食分の欠けた姿を見たなら一気に猛感動だったと思うが、徐々に深くかけゆく太陽になれていったため、期待したほどの感動は訪れなかったのである。このように生まれて初めて見る日食なのに、それほど感動しなかったのは少し後悔している。今自分が見ているのが子供の頃から夢見てきた、あの「日食」なのだと自覚して観測していたら感動していい思い出になったことだろうが・・・。

 この日食は、私は望遠鏡を使用して観測した。20センチの反射望遠鏡なのだが、太陽光を減光するフィルターがないため、口径を6センチに絞って黒いプラスチック製の肉眼用の太陽観察フィルターを絞り穴に装着するだけという、簡単かつ少々危険なオリジナルの方法で観測を試みた(分からない人はすみません)。減光量もちょうどよく、何の支障も無く眼視観測できた。しかし、日食の撮影は思うようにいかなかった。でも、なによりもいけなかったことは、太陽が一番深く欠ける最大食分を過ぎるともう見る気がなくなって部屋に戻ってしまったということである。話には聞いていたけど、日食はピークを過ぎると興味がなくなるって本当だったんだ。
 こうして非感動的に日食を初めて見た私だったが、もう日食に見飽きたといってはいない。私が本当に見たいものは、実は部分日食ではなくて皆既日食なのだ。太陽が月にすっかり覆われてしまって、昼なのに夜の如く暗闇が押し寄せてきて、そして空には黒い太陽と美しいコロナ・・・。そして明るい1等級の星々が昼なのに顔を覗かせるという、幻想的な世界を体験したいのだ!! いつか、この皆既日食を見る日がくるだろうとこれまで夢見てきたが、もう今となってはその夢を一刻も早く実現したくなった。だから、来年1998年2月26日に中米で起きる皆既日食を見に行こうかと思った。しかし、ふと学校の行事予定表を見てみると、ちょうど試験と重なっているではないかーー!!私は仕方なく来年の皆既日食遠征観測は諦めることにした・・・。でも、未来はまだある! 私が成人するまで皆既日食を見るという夢は楽しみにとっておこうと思う。それに、今年は9月に皆既月食も待っている。日食同様、月食も一 度も見たことがない。だから、現在はこの月食を楽しみにしているところである。
 最後に、1997年3月9日、この日は、何はともあれ長年の夢であった日食を見ることができたので、やっぱり充分満足な一日だった。今年は夢だった日食が初観測できたのだから、9月17日の月食も好天のもと初観測ができることを願っている。


SKY FANTASY home